1.第二次世界大戦期に、約4万人の中国人が、日本各地の135の事業所に強制連行され労働を強いられた事実、そしてまた約7000人の中国人が過酷な労働と劣悪な処遇のために異郷で死亡した事実に関する調査研究は、日本近現代史のなかでもなお未開拓に近い分野である。その史実を明らかにするためには、産業別、地域別の研究が必須の条件といえる。本研究は、市内4ヶ所にあわせて1000人を超える中国人が連行された大阪をケース・スタディとして、文献調査と聞き取り調査を結合させ、全体像の解明に資することを目的としている。 本研究を通じて明らかになった点は、大略以下の通りである。 (1)華北労工協会に関する一次史料や体験者の聞き取りの分析を通じて、その実態が、軍の影響のもとに強制的な労働力移動を実施する労務統制機関であることが明らかになってきた点。 (2)個別産業として港湾業に注目し、同業界が政策決定過程に関与した事実を明らかにした点。 (3)アメリカ国立公文書館所蔵の大阪築港BC級戦犯裁判史料の分析を通じて、起訴時点においては追及されていた中国人被連行者の虐待責任が、判決直前になって免責された事実を明らかにした点。 2.以上の研究によって得られた成果を論文としてまとめるとともに、平成7年8月に中国で開催された強制連行に関する国際シンポジウムで報告した。また平成8年11月には大阪で開催された国際シンポジウムの企画を担当し、司会を担当して国際学術交流の場を組織した。
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