1.史料の補遺的収集は所在の判明しているものについてはほぼ完了した。2.19世紀初頭において職場秩序の中に熟練職種をいかに位置づけるかという問題は賃金格付けの問題として、それゆえ企業外的に処理されていたという平成7年度の研究で得られた仮説を、同時期の労働組合文書の分析を通じて実証した。3.今年度の主たる目的は、19世紀第4四半期においてクラフト的規制を前提にした経営資源の活用という発想と、 クラフト的規制そのものの打破という発想が、同時期に形成され始めた労務管理問題認識をいかに規定したかということであったが、争議中・争議直後に職長を熟練工組合から引き離すことを目的とした職長組合の形成過程を分析した結果、クラフト的規制の中で養成された職長層の掌握を通じて間接的に熟練労働者の規制力を統御しようとしたことを明らかにした。4.このことは、労使関係状況に制約された当時の経営者はクラフトの秘密の客観化という方向にではなく、クラフトを体現した職長層の職場秩序における位置を経営側に接近させるという方向で労務管理問題を認識したことを示すものであるが、クラフト的規制の打破という形で問題を設定しえず、「アメリカ的生産方法」の導入に消極的であった戦間期の機械産業経営者の認識の原型が、遅くとも19世紀第4四半期には形成されていたことを意味する。 上記1.〜4.を踏まえて、3年間の研究成果をとりまとめる段階に入っているが、 団結禁止法下の19世紀初頭の労働組合文書は秘密結社的で極めて難解であり、また職長組合関係の手書き文書も判読困難なものが多く、予想外に時間を要しているため、今年度内に本研究の完全な成果を報告することは不可能であるが、次年度中には成果の報告が可能であり、また平成11年には成果を図書として公刊できるはずである。
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