本研究費にかかわる今年度の研究業績としては「財閥企業の戦争責任 アヘンと毒ガス-三井物産と三井鉱山」を発表した。これは、アジア・太平洋戦争下における財閥企業の戦争責任の一端を明らかにしたものであるが、特に財閥商社・三井物産のアヘン取扱いと三井鉱山での毒ガス製造に焦点をあてた論文である。 このうち、三井物産のアヘン取扱問題は、本研究費によって収集した三井文庫の業務総誌や契約書綴りなどをもとに解明した。また外交史料館や国会図書館の極東裁判のアヘンにかんする資料も、本研究費で収集、コピーし利用した。アヘン売買は日中戦争において、「汚れた兵器」として、あるいは現地軍の活動費、機密工作費の捻出のために利用されたが、この実態を財閥商社の経営資料の確たる裏づけのもとに、初めて明らかにした。 また、設備備品費で、日中戦争以後の中国での農産物問題にかかわる書籍、資料を主として購入した。これは日中戦争において農産物の争奪戦が、国民軍、中国共産党軍、日本軍の三つ巴となって行われ、戦争の帰超を決するものであったこと、財閥商社は、軍部と協力して農産物収買の中心的役割をになっていたこと、それが財閥商社のアジアでの活動の中心部分をなしていたことから、その活動を総合的に明らかにするために購入したものである。東南アジアでの商社活動を明らかにする前提として、東南アジアの日本の占領・統治関係の書籍も購入した。中国、アジアでの農産物取扱問題については、現在執筆をすすめているが、掲載予定の勤務大学の紀要の発行日程の都合で、本年度の成果として報告できるにはいたっていない。また政治家、財界人などの伝記や資料なども、軍部・政界と一体となった財閥の活動を明らかにする上での基礎資料であり、これらも購入した。 また戦時下の財閥商社の活動について、すでにここ10年来、多くの資料・データ収集してきたが、それらを整理しコンピュータや、ワープロに打ち込む作業を、村上静枝に依頼しほぼ終了した。
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