本研究は、国債市場で決定される利回りとその期間構造を検討し、名目の利回りと実質利回りの差とインフレ予想値との関係を定式化するFisher仮説やその代替的な諸仮説は成立するか、などを理論的・計量的に分析して、国債流通市場の構造を解明し、併せて市場の効率性も検討することを目的としている。本年度は、国債流通市場が実質的に成立した1977年から現在までの期間において、利回りの名目値と実質値の差はインフレ予想値に等しいとのFisher仮説は成立するかなどを中心に予備的な分析を行った。 Fisher効果をテストするのにi_t=α+λ・E_t(π_t)+v_tという式で「λ=1かつα=一定」が成立するか否かを検定した。この式を推定しそれにもとづいて検定を行う際に、変数が単位根を持っていればOLSによる推定には問題が生じる。そこで共和分法を用いて検定したが、その結果によれば、77年から93年半ばまでの期間では国債利回りはこの仮説を満足しないことが示された。次に、Fisher仮説の代替的な仮説として、Mundell-Tobin仮説とDarby-Feldstein仮説が挙げられる。これらのうち前者では、期待インフレ率の変化が利子率へフルには影響を与えない、つまりλ<1であることを意味し、後者は、期待インフレ率の変化はそれ以上の影響を利子率に与える、つまりλ>1であることを意味する。Stock-Watsonの方法を用いて上式を推定して、Mundell-Tobin仮説を支持する結果が得られた。
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