研究概要 |
井澤は,欧州連合(EU)における通貨統合の実現可能性について,マ-ストリヒト条約に規定されている統合参加のための条件を達成する国がどのくらいあるかを検討した。97年中に財政基準などのハードルをクリア-することが困難であり,1999年1月1日にはルクセンブルグなどのわずかの国だけが先行する見通しである。経済学的にも,EU15カ国は最適通貨圏とはいえない。欧州委員会や欧州通貨機関などが欧州通貨統合の実務上のシナリオを発表し,95年12月のEU首脳会議において基本合意されたが,多くの問題が先送りされている。たとえば,「98年のできるだけ早い時期に参加国を決定する」というだけで,明確な日が決まっていない。99年1月に通貨統合参加国の為替レートをいつのレートを基に固定するのか,共通通貨と通貨統合に参加できなかった加盟国通貨の間の為替レートが不安定にならないかといった問題点がある。欧州経済の減速により,ドイツとフランスが参加できない事態になれば,参加基準の緩和ないし統合時期の延期により通貨統合のシナリオそのものを見直さざるを得なくなることも予想される。藤田は,EMS加盟国通貨のバスケットである欧州通貨単位(ECU)を国際通貨あるいは国内で並行通貨(パラレル・カレンシー)として使用するに当たっての問題点を検討した。その結果として,(1) ECUは銀行間決済システムと最後の貸し手としての中央銀行を持たず,貨幣としては未熟であること,(2)決済システムが完備されたとしても,ECUを国民通貨と競争させ通貨統合を促進しようとする並行通貨アプローチは現実的ではないと結論した。次年度は,井澤は,収集したデータを用いて実証分析を行い,藤田は,欧州中央銀行制度と共通通貨「ユーロ(Euro)」について考察する予定である。
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