銀行産業衰退論は、オン・バランスシート基準で銀行を観察した結果に立っている。しかし、信用保証やデリバティブ取引など、オフ・バランスシート業務を勘案すれば衰退論は否定され、この論議はむしろ銀行産業成長論ないし総合金融サービス産業移行論へ展開される。長期的ないし超長期的にみると、われわれは銀行業務のありようが、変わり目に差し掛かっている時点へ、たまたま遭遇している可能性が強い。 銀行は長い間、「当座預金受入れと企業貸出を併わせて行なう機関」、と定義されてきたが、「金融リスクを引き受けて管理する機関」、または循環論法という問題点はあるにせよ“A bank is what a so called bank does."と考えるほうが、現実に存在する銀行の働きをうまく説明できると考えられる。しかも、わが国とアメリカの銀行産業ないし金融機関産業で現実に起こっていることは、従来の業態の枠組を超えて各種の金融機関が動いている事態である。アメリカで連邦議会は、これに対応できるよう金融機関の業務範囲の大幅な拡大を認める、金融サービス持株会社や多角持株会社の仕組を容認する法案の審議を、1991年から継続的に行っている。わが国で1998年4月から本格的な取組みが行われる日本版ビッグバンも、いわゆるディファクト・グローバル・スタンダードへ合わせて、上で述べたような事態へわが国を誘導することになっている。 以上の事実とそれらに関連する事態の展開をカバーするため、本研究の担当者が平成7〜9年度に行った作業のテーマは、「アメリカ銀行産業衰退論」、「グラス=スティーガル法改正」、「1991年金融制度改革法」、「わが国の金融持株会社構想」、「アメリカにおける金融業際問題」、「ナロウ・バンキングと信用構造」などだった。こうしたテーマについて本研究の担当者はここ3年間に、裏面記載の通り論文や分担執筆書の形で成果を公表してきた。
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