研究概要 |
わが国の個人部門の金融資産選択行動は金融資産残高別世帯によって異なる.高資産蓄積世帯の危険資産構成比は高く、しかもその変動性は高い.その現象は従来の「期待効用極化仮説」による資産選択理論では説明が困難である.その解明の工夫の第1は,アロ-等による資産残高増加による「絶対的危険回避度逓減」の考え方を援用する。(この考え方から「金融構造研究」第17号,1995年6月に「家計部門の「バブル期」における危険資産投資比率について」を発表)第2の工夫は「情報の差」を考慮することである。P.ダヴィトソンは,資産選択者の住む世界は将来生起こうる事象に関し一定の確立分布をもつ世界ではなく,「不確実性の世界」である,と説く.情報は未知の将来事象に関する事前的判断に作用し,「投資フロンティア曲線」の形状に作用し,金融資産構成に影響する.金融資産残高の多寡は,情報生産能力,情報受信量,及び情報解析力という諸面から「情報の差」に決定的影響力をもつ.それが「投資フロンティア曲線」の形状・安定性に作用する。これが結果として高資産蓄積世帯の危険資産投資比率の上昇に寄与している一因である。第3の工夫は金融資産蓄積行動における「時間的視野の差」を考慮することである。金融資産蓄積は将来消費への備えである。その将来の時間を展望する能力は「流動性制約」の存否・壁の高さに影響するし,従って金融資産構成に影響する(流動性制約の考慮は流動的資産のバッファー量を厚めにする.)将来展望能力差は単に主体の主観的性向に基因するのではなく、情報に左右されるうるであろう。 今年度は資産選択理論についての理論的検討を主にした.来年度はその実証的研究を試みる.
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