1.欧米連邦諸国家における地方政府をめぐる議論の中で、地方政府行動、地方分権、地方公共財の需要と供給、地方政府支出の意思決定プロセスなど、いくつかのトピックを中心に文献を収集し、その整理と展望を進めた. 2.上記の文献サーベイによる1つの成果として、「11.研究発表」に記載の論文を執筆した.そこでは財・サービスを集団で消費することのメリットと集合的な意思決定の関係を明らかにし、地方政府の形成に関わる基本的問題を論じた.また間接的な成果として、アメリカの地方財政分野でのバイブル的著書ウォーレス・オ-ツ著『地方分権の財政理論(原題Fiscal Federalism)』の邦訳(1996年5月出版予定)に一部分携わった. 3.日本の地方財政を対象にした実証研究を意図し、分権的理論の応用である「地方公共財に関する需要関数の推定」を日本の地方財政に適用する可能性を探った.そのため県単位のクロスセクション・データを収集し、試験的な推定を試みるに至った. 4.近年、日本で展開されてきた分権的論議について、将来的にその評価を試みるべく情報収集を進めた.具体的なテーマとして、地方分権推進委員会での議論の推移、パイロット自治体・地方中核都市制度の推移と成果、首都移転論議の推移、市町村合併に関する議論、地方交付税制度の改革論があげられる. 5.政策論の中では、地域福祉・高齢者介護のあり方や公的介護保険制度導入をめぐる論議が、サービス提供主体としての地方自治体の役割や分権的社会のメリットという視点から、地方財政や地方自治の問題としての重要性を改めて認識させてくれたことが大きな収穫であった.この点では、地方公共財の理論を高齢者ケアに応用した論文を現在執筆中であり、1996年5月の「日本経済政策学会」で報告予定である。
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