今回の研究計画では経営戦略の形成プロセスを組織学習的な観点から分析することを意図している。しかし、組織学習を数理モデルとして解析的に分析することには、テクニカルな意味で限界がある。そこで、Marchらのゴミ箱モデルをより簡便にしたシミュレーション・プログラムSingle Garbage Can Program(SGCP)を開発した。 その結果、組織の計量的研究の成果を踏まえて、経営組織の中で経営戦略が形成されるプロセス、経営戦略の果たす機能について、集団的学習のシミュレーションをSGCPを使って行うことができるようになった。そらに囚人のジレンマ状況で、経営戦略及び意思決定原理が進化していく様子をコンピュータ・シミュレーションによって描写できるプログラムの開発に着手しているが、これについては完成にはまだ時間が必要である。しかし、その理論的な考察と適用可能性については、拙著『経営の再生』の中で触れることができた。 その中で、今年特に注目したのは未来係数の概念である。ゲーム理論で考えれば、共倒れになるはずの囚人のジレンマ・ゲームも、ゲームが長期間にわたって行われた時には、実験でもシミュレーションでも協調関係が現れる。そしてその協調行動を安定させるためには、未来に対する重みづけである未来係数が十分に大きいことが必要であることが理論的に証明される。例えば、日本企業のもつ強い成長志向などはその典型例であるが、今年は「見通し指数」の開発に成功し、拙稿「見通しと組織均衡」では未来係数の計測を試みた。また実際の日本企業での調査データをふまえ、かつての組織均衡論がもっていた理論的な可能性を拙稿「新しい企業の広告効果モデル構築の試み」の形で示すことができた。
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