この研究計画では、協調的な経営行動に対してさまざまな角度から分析を試みた。経営理論や経営の実践の現場で見られる現象をAxelrod流の協調行動の進化の観点から描いてみたのである。そのために、まずはAxelrodの進化理論のエッセンスを抽出して未来傾斜原理として定式化して使い易くする必要がある。単純化して言えば、現在の損得勘定や過去への復讐にこだわることなく、より良き未来をこそ選ぶべきだというのが未来傾斜原理である。このことによって、経営理論や経営の実践における協調行動の出現を説明することが容易になる。未来係数が高い場合には、未来への期待に寄り掛かる形で、苦しいても現在をなんとか凌いでいく行動につながるが、このことは日本企業でも、利益を分配したり使ってしまったりせずに、こつこつと内部留保して、将来の拡大投資のためにとっておこうとする強い成長志向として観察できる。 さらに、このことを応用して、組織均衡を説明するための有望な二つの指標、見通し指数、未来傾斜指数を開発した。これらの二つの指数はAxelrodの未来係数の代替的指標として作られており、見通し指数は、その人の会社における将来への重みづけを表し、未来傾斜指数は将来に対する心理的な未来係数を表している。そして、この二つの指数が高い値をとるとき、職務満足を感じ、参加の意思決定が行われるという仮説の検証が行われた。見通し指数については、日本の大企業21社の2600人以上のホワイトカラーのデータによって支持され、見通し指数と職務満足比率との間には決定係数0.9989、参加比率との間には決定係数0.9980の非常に強い線形の関係があった。未来傾斜指数については、日本の大企業67社の約23万3千人のデータによって支持され、未来傾斜指数と職務満足比率との間には決定係数0.9970、参加比率との間には決定係数0.9678の強い線形の関係がやはりあった。
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