研究計画にあるように、平成7年度は次年度から開始予定の本格的実証調査のための予備段階である。しかし、調査協力を得た政府特殊法人の研究委員会を通して、本研究の予備調査を行うことができ、それから得られた新たな知見として、研究目的に沿って論ずれば、以下の諸点があげられる。 1.交渉における内的合意形成過程を究明する鍵は、相互作用に基づいた一体化にあるようだ。すなわち、交渉という職務の学習・研修に関して用地交渉担当者間では職場の先輩・後輩間での個人体験・知識の共有化を図る現場研修(OJT)が基本的に採用されているので、先輩・後輩間での頻繁な接触を通した相互作用とこれから育成・発展される一体感が交渉者側の内的合意形成過程における支配的な価値となっている。また、用途交渉の相手である土地所有者等との関係においても、立場の違いは水と油ぐらい違えども、用地担当者-土地所有者間での頻繁な接触を通した相互作用とこれから育成・発展される一体感が両者間での内的合意形成過程における重要な価値となっており、同様の論理が適用されているようだ。 2.したがって、交渉担当者も土地所有者も交渉に関しては、呉越同舟だが同一の交渉チーム・メンバーであるという本研究の取っている理論仮設が、現実妥当性の高い議論であると確認された。 3.内的合意形成過程における重要な価値観として指摘できるのは、第1に支配-服従、第2に権限受容-非受容、そして最後に友好-非友好の価値観の連続的な次元であった。 4.交渉担当者各人の持つ価値体系と個々人のパーソナリティや業績との関係は、今後の課題である。パーソナリティとの相関研究や研究経過において報告したノースウェスターン大学における交渉研究の特徴である期待効用理論と意志決定にまつわる認知バイアスの観点を理論的枠組みに導入することが次年度の研究課題である。
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