本研究期間において、本研究の主要テーマの1つである“イギリスの専門経営者の養成過程"を明らかにするために、イギリス経営学研究の史的展開を、(1)19世紀中葉から第一次世界大戦前まで、(2)第一次世界大戦後から1960年代までの期間、(3)1970年代から現在までの期間の3つに区分し、考察を加えた。 その史的展開において特筆すべき点は、以下の通りである。 1)イギリス経営学研究を文献史的にみると、19世紀末期の科学的管理研究を除けば、20世紀初頭まで企業経営に関する文献はイギリスにはほとんど見受けられないこと。 2)19世紀中葉のイギリスの企業経営者たちは、経験主義に固執し、科学教育を欠き、労働者を懐柔するために温情主義的施策や賃金基金説に基づく低賃金労働によって生産性を向上させようとしていたこと。 3)温情主義的従業員福祉活動を展開するクエーカー企業家たちは、自らの管理活動や著作物を通じてイギリスの経営管理思想に多大な影響を与えたこと。 4)イギリスでは、20世紀を迎えてもなお根強く個人主義的で競争的な「所有者資本主義」がはびこっていたこと。すなわち、イギリス独特のエリート教育の因習が、専門経営者の養成過程を阻害したこと。 イギリス産業の管理概念や実践は第一次世界大戦の勃発によって、徹底的な改革を迫られたこと。 第二次世界大戦以来、とりわけ奉仕、社会的責任、リーダーシップ、人間関係、利潤動機の否定といった概念が広く受け入れられてきたこと。
|