新しい金融取引の発展にともなって、会計的に認識されない取引、すなわちオフバランス取引が質・量の両面にわたって急速な発展をみせてきた。オフバランス取引の最も代表的な事例は、デリバティブ(派生金融商品)の取引である。現行の企業会計実務の基本的枠組みをなす取得原価主義会計をどのように拡張すれば、デリバティブ取引をオンバランス化することができるかを、計算構造論の観点から考察したのが本研究である。 取得原価主義会計の認識対象は「取引」(transaction)に限定されている。取得原価主義会計における取引とは、現金収支をともなう経済事象をいう。したがって、現金収支の識別が、会計的認識の条件となる。このことは、現金概念を拡張することにより、会計上の取引概念を拡張することが理論的に可能であることを示唆している。 デリバティブは、本体金融商品から派生した金融商品であり、当該取引に付随する現金収支としてはデリバティブ取得時の契約購入代金支出(ただし先渡契約や金利スワップ等は除く)と当該デリバティブ決済時の決済収入(または支出)しか存在しない。このためにデリバティブの取得から決済にいたるまでの期間に発生するデリバティブの公正価値がオフバランスとなる。その公正価値をオンバランス化するためには、(1)会計上の現金概念を、期待将来現金収支の現在価値にまで拡張すること、(2)現金収支の金額の確定性を緩和することが条件となる。 以上(1)(2)の条件は、市場のランダムな変動を、企業経営者の業績に直結することを含意している。このことは、さらに、取得原価主義会計の持分会計・収支会計としての機能の後退、複式簿記の地位の低下を不可避的にともなう。しかし、上記(1)(2)の条件が満たされ、それにともなう取得原価主義会計の機能のそうした変容が実務において是認される場合には、すべてのオフバランス取引を会計的に認識することが基本的に可能となる。
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