取得原価主義会計システムは、代替的な会計システムである各種の物価変動会計システムに比較して、利害調整機構としての市場システムへの依存性が少なく、従って、市場の動きに過敏に反応することなく、企業の自律的な行動なり意思決定をある程度の範囲において支援し、可能にする経済シグナル形成のシステムである、と特徴づけることができる。換言すれば、市場の論理に対して、比較的に自律的な企業の論理を貫徹できる会計計算システムである、ということができる、考えている。そのような取得原価主義の働きの一つの局面を、取引の統治構造の相違から、いかなる取引構造において、取得原価主義会計に基づく原価および利益が用いられるのかを明らかにした。またコ-ポレート・ガバナンスの観点から、株主支配型企業、従業員支配型企業、株主・従業員交渉型企業の3つのタイプにおいて、原価主義会計の働きを検討した(研究会が発表し、公表はまだ)。今後は、さらにコ-ポレート・ガバナンスの観点を進展させ、状態依存型ガバナンスにおける原価主義会計システムと時価主義会計システムを比較・検討したいと考えている。なお、本研究の基本的な視点は、会計システムとしての取得原価主義の作用の分析は、他の経済的諸制度と密接に結びついて、その経済的インパクトを生み出すものであり、あくまでも「制度的補完性」の観点から、取得得原価主義を分析することが必要であるというものである。
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