本年度においても、現在進展の著しい不完備契約理論、取引コストの経済学、比較制度分析、制度の経済分析といった観点からなされる企業理論の成果を鋭意サーベイし、理解に努めることを一方の目的とした。 取得原価主義会計システムは、価格システムとはもともと一定の距離を保った形で設計された会計システムであり、積極的に価格システムとの関係を維持し、時価評価の範囲を拡張しようとするいわゆる時価主義会計システムとは、価格システムとの関係という観点から大きな相違が認められる。 価格システムの関係から、つまり配分的役割を中心において、取得原価主義会計システムと時価主義会計システムを比較するための分析枠組みとして、これまでの多様な企業理論の渉猟に基づいて、現時点においては、取引コストの経済学のいう「測定コスト」の観点から、分析することが、最も望ましいとの結論を得え、この枠組みから、取得原価主義会計を経済的に分析することがもう一つの目的であった。 分析は、取引コストの経済学の2つの流れのうち、測定の側面る分析枠組みに従って、取り扱われる財の特殊性をキ-概念として、アウトプットの属性の測定、インプットおよび生産プロセスのモニターに関する「測定コスト」を比較したものであり、取得原価主義システムは、時価主義会計に比べて、むしろ配分的役割の範囲が広いという、意外な結論を得た。時価主義会計は、価格システムからの情報を積極的に取り込む結果、財の特殊性の高まりに応じた「測定コスト」の増加率が、取得原価主義会計に比べて、大きいことがその理由である。
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