本研究では、1990年3月決算期から95年3月決算期のデータを用いて、銀行の利益情報とわが国銀行株価の関係を、時価開示と利益操作の視点から分析した。 1990年3月決算期から、邦銀では有価証券の時価開示が始まり、投資家は、歴史的原価による銀行利益が有価証券含み益の増減分だけ補正して期待を形成できることとなった。この時価開示による利益の補正が銀行株価に適切に反映しているかが問われる。 銀行では、1992年3月決算まで、配当性向40%を限度としなければならないとする最高配当性向基準があった。また、93年決算期以降、大蔵省との協議をベースに段階的に不良債権の大規模な処理が進められている。この配当性向基準を満たすため、また不良債券処理のため、銀行は実質的にキャッシュフローを伴わない自由裁量項目(例えばクロス売買による証券売却益)を操作し公表利益を作り上げていたと考えられる。この利益操作は、株式市場で投資家に見抜かれているかが問われる。 手法としては、Barth (1994)等の時価開示を含む銀行決算と株価の関係の研究を、主としてJones (1991)等の発生項目による利益管理の研究の視点から拡張する。発生項目と株価の関係に関する先駆的研究が、最近、Beaver=Engel (1996). Sloan (1996)等により発表された。本研究の独自性は、時価開示、発生項目の両者を同時にとりあげ、パネル手法を用いて分析するところにある。 1990年3月から95年3月のデータで分析した結果有価証券含み益を補正し、さらに自由裁量項目操作前に公表利益をもどした操作前の「本来の」利益が、公表利益よりも株価にやや強く影響を及ぼしていた。投資家は時価開示をある程度評価しており、また利益操作の一部は見抜かれていた。
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