研究概要 |
Xを位相空間とするとき,そのk-次有界コホモロジーH^k_b(X;R)の擬ノルムを||・||で表す.H^k_b(X;R)の元で,この擬ノルムが零であるもの全体の作るR-部分ベクトル空間をH^k_b(X;R)の零ノルム部分空間といい,N^k(X)で表すことにする.すなわち,N^k(X)={α∈H^k_b(X;R);||α||=0}.S.Matsumoto-S.Morita (Proc.Amer.Math.Soc.94(1985))およびN.Ivanov (J.Soviet Math.52(1990))によって独立に,k【less than or equal】2のときはつねにN^k(X)={0}であることが証明されている.この時点では,k>2においてN^k(X)≠{0}であるような例は一つも知られていなかった. 本年度の研究では,特にこの位相空間Xが種数>1の向き付け可能な閉曲面Σであるとき,3次零ノルム部分空間N^3(Σ)を調べた.既に,研究代表者は前年度までの研究によってN^3(X)≠{0}であることを上記のMatsumoto-Moritaの論文中の定理を利用することによって証明しており,論文(T.Soma:Existence of non-Banach bounded cohomology,to appear in Topologyとしてまとめている.しかしながら,Matsumoto-Moritaの定理の証明ではHahn-Banachの定理が使用されているので,N^3(Σ)の非自明な元を具体的に構成することが出来なかった.そのような状況のもとで,Σ×R上の双曲的計量と特異ユークリッド的計算の両方を使うことによって,N^3(Σ)の非自明な元を具体的に構成することができた.ここで使われる,ユークリッド計量はΣの擬Anosov自己同型に同伴する測地的葉層構造を利用して定義されるものである.この具体的な構成法の応用として,N^3(Σ)が連続濃度次元のベクトル空間であることも証明できた. 以上の結果は,次のような論文としてまとめた. T.Soma,The zero-norm subspace of bounded cohomology.
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