今年度の研究計画の中心は、エルミート多様体の部分多様体論の研究であった。具体的には複素多様体Mからエルミート多様体Nへの正則はめ込みを考えた。この場合、取り巻くエルミート多様体Nのエルミート接続からM上に誘導される接続はM上の誘導エルミート計量に関するエルミート接続になる。リーマン幾何学における部分多様体論のガウスやワインガルテンの公式、ガウス・コダッチ・リッチの方程式のアナロジーを考え、この研究の目的の一つでもあるケーラー多様体の複素部分多様体に関する結果を、基本的な部分についてではあるがエルミート多様体の複素部分多様体に関するものに拡張できた。例えば、複素部分多様体Mの正則断面曲率は取り巻くエルミート多様体Nの正則断面曲率を越えないこと等が分かった。 複素部分多様体Mの第二基本形式はリーマンの場合とは異なり、一般には対称性を持たない。1932年にハイデンはねじれを持つ空間の部分空間について研究し、『半対称』な接続の概念を導入した。『半対称』な計量的接続に関する第二基本形式は対称である。エルミート接続の場合にこの『半対称』性を一般化した概念を導入した。このようなエルミート接続に関する第二基本形式は対称である。また、この概念はエルミート多様体が局所共形ケーラー多様体になることと同値であることが分かた。局所共形ケーラー多様体の複素部分多様体論はエルミート接続を用いた場合もその第二基本形式は対称であり、基本公式・基本方程式等もケーラー部分多様体論とほぼ同様に使用できるので、ケーラー部分多様体に関する多くの結果がエルミート幾何学に拡張されうると確信する。
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