エルミート多様体にエルミート接続を考えた幾何学を『エルミート幾何学』と呼び、今年度は『エルミート幾何学』における部分多様体論を研究対象としてきた。エルミート接続の正則なはめ込みによる誘導接続はエルミート接続であるが、一般に部分多様体の第2基本形式は対称ではない。しかし、LCK(局所共形ケイラー)多様体の複素部分多様体はLCK多様体であり、その第2基本形式も対称である。対称な第2基本形式をもつ複素部分多様体の場合は曲率に関するガウス・コダッチ・リッチの基本方程式も取り扱い易くなる。取り巻く空間には通常、CSC(断面曲率一定)或いはCHSC(正則断面曲率一定)等の条件が仮定される。しかし、エルミート接続の曲率テンソルはビアンキの第1恒等式を満足しないため、CSC・CHSCの条件を仮定してもその形が定まらない。そこでこれらの条件を表現するためにエルミート接続の曲率テンソルを用いて擬曲率テンソルL、Pを構成した。Lを用いた結果として各点ごとにCSCなエルミート多様体の対称な第2基本形式を伴ったエルミート部分多様体のスカラー曲率に対するピンチングが部分多様体の断面曲率に対するピンチングを意味するというチェン・奥村型の定理や、ある種のコンパクト複素部分多様体の非存在性を得ることができた。また、Pを用いて各点ごとにCHSCなLCK多様体の特徴付けを行った。この結果はヴァイスマンの結果の改良になっている。一方、エルミート計量の共形変形のもとでの擬曲率テンソルPの変形公式より共形不変な擬ボホナ-曲率テンソルB_Hが自然に得られた。B_Hを用いた結果としてボホナ-平坦なケーラー多様体の複素超曲面に対する山口・佐藤の定理のエルミート多様体への拡張を得た。また、擬ボホナ-曲率テンソルB_Hの共形不変性はLCK幾何において重要な役割をもつ可能性があると考えられる。
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