最近、ミリ秒パルサー1620-26から異常に大きな角加速度の時間微分Ωが観測され、Ω、Ωと組み合わせると減速指数はn_B=4×10^7というきわめて大きな値になることが示された。ふつうのパルサーからの観測値はn_B=2-3の範囲にあることから、このパルサーはいかに異常な回転をしているかがわかる。またミリ秒パルサー1937+21からもn_B=4.6×10^3という大きな減速指数が報告された。私たちは、この異常な回転の原因は中性子星内部の超流体と通常物質(クラスト)との相互作用が原因ではないかと考え、この研究を開始した。本研究の目的は中性子星内部の超流体と通常物質との相互作用という観点から、異常な回転の原因、そして中性子星内部の物質の性質や状態を探ることである。 平成7年度では、中性子星の内部に対し簡単なモデルを採用して計算を行った結果、超流体とクラストとの摩擦が不安定になり、PSR1820-26の観測を充分に説明できるきわめて大きなΩの生じることを見出した。 平成8年度においては、中性子星の内部構造を精密にし、さらに温度分布を考慮に入れたプログラムの開発を行ない、完成させた。この計算コードを用い、先ず、グリッチに対する中性子星内部の熱的な応答を調べた。その結果、次のようなことが明らかになった。 ・グリッチで解放された熱と中性子星のもっている熱との比(Q)が小さいときは、応答は線形となる。このときは、中性子星表面温度の上昇はグリッチで解放された熱量に比例する。また、グリッチが起る場所がより内部であるほど、表面温度がピークに達する時間は遅くなる。 ・比Qが大きいときは、応答は非線形になる。グリッチがより内部で起きたときほど、表面温度がピークになる時間は短かいなどという結果が得られた。この一見おかしくみえる結果は、比熱や熱伝導度の温度依存性を考えることにより、うまく説明できることがわかった。 ・グリッチによる表面温度の上昇は一般にわずかで、現在の観測で検出するのは困難であろう。 今後は、グリッチに対する中性子星内部の熱と回転の応答を調べていこうと考えている。
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