中性子星の内部で超流体とクラストの間には弱いながらも摩擦が働いており、これにより二成分は結合している。近年、二成分の間の結合はある臨界温度以下で摩擦不安定になることが示された。一方、ミリ秒パルサーPSR 1620-26において、異常に大きな角速度の時間に対する二階微分Ω_cが観測されている。ブレーキ指数の値は多くのパルサーで〜3であるが、PSR 1620-26の場合〜4×10^7となる。私たちは、このPSR 1620-26の異常な振舞いは、二成分の間の摩擦が不安定になっているためではないかと考えた。これを確かめるために、私たちは臨界温度以下における中性子星の回転を数値計算によって調べた。その結果、以下のようなことがわかった。 1.摩擦不安定によって超流体とクラストの間の摩擦が急激に増大し、角加速度Ω_cが大きく変化し、観測されているような大きなΩ_cが再現できることがわかった。 2.PSR 1620-26の観測との比較から、摩擦不安定に関わる超流体の慣性モーメントI_Sと摩擦の強さをあらわすパラメータω_<cr>に制限をつけることができた。超流体の慣性モーメントはI_S〜3.6×10^<43>gcm^2で、これは中性子星の全慣性モーメントの約3%にあたり、現在までの観測と理論から予想される値の範囲内にある。一方摩擦の強さを表わすパラメータはω_<cr>〜10rads^<-1>である。これは比較的強い摩擦に対応しており、中性子星内部にクラストとの相互作用が大きい超流動成分が存在していることを示している。 3.私たちの計算結果によると、現在PSR 1620-26は摩擦不安定が成長する過程にあり、今後十数年の間にΩ_cはさらに大きくなり、ついにはその符合を正に転じると予想される。
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