重力カレンスの統計の理論計算を観測と比較する上で、最も重要なものの一つが増光バイアスと呼ばれる効果である。これは重力カレンズ効果によって増光を受けるため暗いものが見えやすくなる効果である。従来の取り扱いでは、レンズモデルの詳細によらない簡単な定式化がなされていたが、実際にはレンズモデルごとに定式化を換えるべきであることを指摘し、いくつかの例によって従来の定式化の違いを明らかにした。一般的には従来の方式では増光バイアスは大きくなりすぎる傾向があることが判明した。また銀河の専門家との議論を通して現実的なレンズモデルの検討をおこない、質量分布の違いによる効果および銀河を取りまく銀河団の効果を定量的に評価した。 研究分担者によって局所的に非一様な時空を構成する方法としてアインシュタイン方程式の平均化を用いない方法が提案された。この方法はニュートン理論に基づいた宇宙論で使われている近似を一般相対論に拡張したものであり、数値計算に便利な方法であると思われる。この方法と従来の平均化を用いた方法との類似点および相違点を考察中である。従来も散られている重力レンズ方程式は一様・等方宇宙モデルを暗黙のうちに仮定しており、現実的な宇宙に適用できるかどうかを明らかでない。そのため、上の方法で構築した非一様宇宙モデルで光の伝播を計算することで、従来の重力レンズ方程式の妥当性を検討し、それが近似として成り立つための条件を示した。
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