この研究の目的は、重イオン散乱データの解析や宇宙論の研究において重要な量子色力学系の有限温度相構造を、格子QCDの数値的研究により明らかにすることである。本研究課題に関して以下の2つの研究を行なった。 第一に、軽いアップ、ダウン/クォークと重いストレンジ・クォークを含むN_F=2+1の場合に温度ゼロでのハドロン質量を研究した。クォークは直接観測できないので、格子上のクォーク質量がどのような物理系に対応するかを言う為には温度ゼロのハドロン質量を知る必要がある。我々がN_F=2+1で1次相転移を発見したクォーク質量の値は、N_F=2やN_F=3の場合のハドロン質量から現実的な場合に近いであろうと予想されていたが、N_F=2+1の新しい結果により、実際にそうであることが確認された。これは前の結果toわせて、ウイルソン・フェルミオンでは現実的な場合の有限温度相転移が1次相転移であることを意味する。 第二に、N_F=2の場合に、改良された作用を使って有限温度相転移の研究を行ない、カイラル極限における相転移次数が連続的であるという標準作用による結果を確認した。また、カイラル極限における相転移次数が2次である場合に連続極限付近で理論的に予想されていた臨界現象が、格子上で実際に存在することをウイルソン・フェルミオンにおいて初めて示した。ウイルソン・フェルミオンはクォークの格子上の表現として最も自然なものであるが、現在シミュレーション可能な格子では、標準作用を使っている限り格子の荒さによる誤差が大きく、限られた問題においてしか信頼できる予言を行なえなかった。この結果はN_F=2の場合の相転移が2次であることを示唆するとともに、ウイルソン・フェルミオンを使った有限温度相転移の研究では作用の改良がきわめて有効であることを意味する。
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