この研究の目的は、量子色力学(QCD)系の有限温度相構造を、格子QCDの数値的研究により明らかにすることである。本研究課題に関して平成8年度は以下の研究を行なった。 (1)我々の行った標準格子作用の場合の有限温度格子QCDのウイルソン・クォークを用いた系統的シミュレーションの最終的解析を行い、論文にまとめた。結果は、クォークの質量がゼロの極限における有限温度相転移における相転移次数が、N_F=3以上では有効シグマ模型の予想と一致して、1次相転移となった。現象論的に興味があるN_F=2の場合には有効シグマ模型からの確定的な予言が無く格子QCDの結果が興味あるが、我々は2次相転移を示唆する結果を得た。さらに、軽いアップ、ダウン・クォークと重いストレンジ・クォークを含むN_F=2+1で現実的なクォーク質量の場合の有限温度相転移が1次相転移であること発見した。 (2)N_F=2の場合に、改良された作用を使って有限温度相転移の研究を行ない、カイラル極限における相転移次数が連続的であるという標準作用による結果を確認した。また、カイラル極限における相転移次数が2次である場合に連続極限付近で理論的に予想されていたO(4)ハイゼンベルグ模型と同じタイプの臨界現象が、QCDでも実際に存在することをウイルソン・フェルミオンにおいて初めて示した。この結果はN_F=2の場合の相転移が2次であることを示唆するとともに、ウイルソン・フェルミオンを使った有限温度相転移の研究では作用の改良がきわめて有効であることを意味する。 (3)QCDの有限温度相転移の研究に密接に関連する、ゼロ温度の真空構造のフレーバー数依存性を研究した。
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