平成7年度に行ったの研究は大きく二つに分けられる: 1)核子に対する平均場近似(ソリトン描像)とFaddeevの方法との間の関係について研究した。Faddevの方法では、クォーク・クォーク相関は正確に考慮されているが、クォーク・反クォーク相関(つまり、中間子の自由度)は取り入れていない。一方、平均場近似では、クォーク・反クォーク相関は近似的に入れてあるのに対して、クォーク・クォーク相関は無視されている。我々はこの関係を形式的に表した。また、その知識を利用して、両者の方法を次のように改良した:(i)従来の平均場近似では、核子に対する安定なソリトン解は得られないことが知られていた。このことに関して我々は、もし4体フェルミ結合定数の代わりにクォーク・クォークの散乱行列を使えば、安定したソリトン解が得られることを指摘した。即ち、散乱行列のエネルギー依存性を利用して、三クォーク系はつぶれたり、広げたりすることを防げる。我々はそのことを形式的に示したが、具体的な数値計算は来年度の課題となる。(ii)Faddeev形式の枠組みで、中間子の自由度を具体的に取り入れた。即ち、従来のFaddeev計算で使われていたクォーク・クォークの散乱行列にクォーク間の中間子交換から生じる相互作用を加えて、この相互作用についての一次の摂動計算を行った。この計算の結果から、クォーク間のパイオン交換が核子に対して非常に大きな引力を与えていることが分かった。従って、単純な摂動計算は定量的に不十分と思われるので、その評価の改良は来年度の課題となる。 2)Faddeev 方程式の枠組みの中で、核子の電磁的な性質について研究した。核子の波動関数に対するLorentz boostの影響を正確に取り入れたことがこの研究の特徴の一つである。このLorentz boostの効果が、核子の磁気能率に対して重要であることが分かった。我々のFaddeevの波動関数を使って、核子の軸性ベクトル結合定数を再現できたが、我々が構成した核子のスピンの大部分(約80%)はクォークのスピンから生じるので、核子・レプトン深非弾性散乱実験の解析から得られた情報と矛盾する。また、核子内のクォーク凝縮の値を使って、パイオン・核子のシグマ項を再現できたが、陽子・中性子の質量の差は大きすぎる。平成8年度の研究で、axial vector diquarkの自由度及びconstituent quarkの構造を更に考慮し、この計算を改良するつもりである。例えば、今年度の計算で得られた核子の磁気能率の絶対値は実験値と比べて小さいが、axial vector diquarkの自由度は大きく寄与することが考えられる。また、現在Lorentz boostの効果を取り入れた核子の荷電半径の計算は進行中である。
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