平成8年度に行った研究は大きく二つに分かれる。 1.核子に対してこれまで使われていた南部-Jona-Lasinio模型におけるFaddeevの方法では、クォーク・クォーク相関は正確に考慮されているが、クォーク・反クォーク相関(つまり、中間子の自由度)は取り入れられていない。我々はこの研究で、Faddeev形式の枠組を拡張して、中間子の自由度を具体的に取り入れた。平成7年度の研究では、単純な摂動計算を利用して、クォーク間のパイオン交換による核子の質量のずれを評価したが、今年度の研究では、摂動計算の改良を行った。そのため、中間子交換によるラダー型相関の一部(つまり、二クォークの中間状態をscalar diquarkに限った部分だけ)を正確に取り入れ、その残りの部分について摂動計算を行った。その新しい枠組を使って核子の質量を計算したが、中間子交換の大部分はもうすでに非摂動の波動関数に含まれていて、摂動による寄与は小さいことが分かった。これは、摂動級数の収束を改良したことを意味する。数値計算の結果、パイオン交換によって、核子の質量が100-200MeV下がることが分かった。尚、この計算によって、平均場近似の方法との関係の一部を解明したと思う。 2.Faddeev方程式の枠組の中で、核子の磁気能率及び荷電半径を計算した。外場に持ち込まれる運動量によって生じる波動関数に対するLorentz boostの影響を正確に取り入れたことがこの研究の特徴である。Constituent quarkの質量として通常の値(400MeV程度)を利用すると、陽子と中性子の荷電半径を同時に再現できることが分かった。つまり、相対論的なFaddeev方程式による方法では、核子とデルタ粒子の質量だけでなく、核子の大きさも正しく記述できることを確認した。核子の磁気能率の絶対値は実験値より小さい値が得られたが、それを改良するためには、axial vector diquarkの自由度を取り入れることが必要である。現在、その自由度を取り入れるための計算、及びconstituent quark自身の構造による影響を評価するための計算を進めている。
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