申請者もその提唱に寄与したインフレーション理論は現在宇宙論のパラダイムとなっている。この理論は宇宙が平坦であることを予言し、もし宇宙定数Λ=0の通常のモデルをとるならばこれは宇宙の密度パラメータがΩ=1であることを示唆する。しかしΩ=1であり、且つビッグバン元素合成と矛盾しないためには、正体不明の非バリオン的暗黒物質が宇宙に満ちていなければならないことになる。しかしここで用いられた元素合成の計算は宇宙がまったく一様と仮定した場合のものであって、非一様の場合には結果が大きく変わる可能性がある。この数年、申請者をはじめとする多くの研究者によって、非一様宇宙での元素合成が精力的に研究されてきたが、それらの研究はネットワークの大きさにおいても、計算の開始時刻などにおいても十分ではなかった。寺沢と申請者は、詳細な計算を続け、宇宙の凸凹の振幅の度合い、その空間的スケールなどのパラメータ空間で系統的に研究を進め、それらに対する、かなり信頼できる結果を得た。 また最近、QSOの吸収線の中に重水素線が2、3の観測グループにより発見され、その値が従来の観測値より数倍大きいという値が1、2のグループで得られている。非一様宇宙での密度ゆらぎの統計性を考慮し、ビッグバンに対する検定を進めている。
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