研究概要 |
近年軽元素の観測が観測技術の進歩に伴い、飛躍的に進みつつある。太陽系近傍の星間ガス中の重水素の観測はハッブル望遠鏡によって、極めて精度の良い測定が可能となった。またQSO吸収線による始源的組成に近いと考えられるガス中の重水素の測定も進みつつある。しかし観測の結果、特に観測家の示すような厳しい誤差範囲を信ずるならば、もっとも単純なビッグバン元素合成の理論は観測と矛盾が生じる。これはヘリウムの観測を信じるなら宇宙のバリオン数密度は小さくなければならないのに対して,星間ガス,太陽系の観測から求められた重水素の観測からはバリオン密度は小さくなければならない。この事態をビッグバンの危機と叫ぶ研究者もいる。最近、郡,川崎と共同で宇宙のレプトン数が非対称である宇宙での元素合成を、理論の誤差をモンテカルロ計算によって統計的に評価しながら調べた。その結果、現在の観測値をもっとも説明できる量は、ニュートリノの縮退パラメータが0.043±0.040、またバリオン密度パラメータが、0.015+0.006-0.003であることが95%の確かさでいえることがわかった。この様にレプトン数の非対称性があるとこの危機を救える事を誤差評価を定量的に明らかにしながら示す事が出来た。しかし,宇宙のレプトン数の破れがこの様にバリオンの非対称性以上に大きいことは,現在素粒子論的宇宙モデルでは適当な起源を考えるのは難しそうである。
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