ビッグバン元素合成は宇宙のバイオリン密度の良き指針である。これまで寺沢と非一様宇宙での元素合成により、宇宙のバリオン密度にたいする制限がどの程度緩和されるかを調べて来たが、クオークハドロン相転移直後からの詳しい進化計算をしても、バリオン数に対する制限は一様な場合と本質的に同じである、あることが確認出来た。これらの結果はスタンフォード大学で開催された、マ-セル・グロスマン会議での招待講演で詳しく報告した。 又、近年軽元素の観測が観測技術の進歩に伴い、飛躍的に進みつつある。 太陽系近傍の星間ガス中の重水素の観測はハッブル望遠鏡によって、極めて精度の良い測定が可能となった。またQSO吸収線による始源的組成に近いと考えられるガス中の重水素の測定も進みつつある。しかし観測の結果、特に観測家の示すような厳しい誤差範囲を信ずるならば、もっとも単純なビッグバン元素合成の理論は観測と矛盾が生じる。ビッグバンの危機と呼ぶ研究者もいる。最近、郡、川崎と宇宙のレプトン数が非対称である宇宙での元素合成を、理論の誤差をモンテカルロ計算によって統計的に評価しながら調べた。その結果、現在の観測値をもっとも説明できる量は、ニュートリノの縮退パラメータが0.043【+-】0.040、またバリオン密度パラメータが、0.015_<+0.006-0.003>であることが95%の確かさでいえることがわかった。 佐藤は1997年12月にシカゴで開かれたテキサスシンポジウムにおける、ビッグバン元素合成ワークショップの組織委員長をつとめたが、これらの成果に基づき冒頭で総合報告をおこなった。
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