前年度に引き続き、物質場の球対称重力崩壊と動的ブラックホールの性質を古典論文及び量子論のレベルにおいて解析した。特に、スカラー場の重力崩壊に焦点をあてて、波動の自己重力と分散性の競合によって現れるブラックホール形成の臨界現象についての研究を進展させた。1.前年度においては、スカラー場や重力場の自己相似的な時間発展を示す臨界重力崩壊のモデルに正準量子化の方法を適用し、ブラックホールの量子蒸発を記述する波動関数を与えた。これは重力場の量子化を含むレベルでブラックホール蒸発過程が具体的に示された初めての例である。2.ただし、実際の臨界重力崩壊は、古典論のレベルにおいても、より複雑な場の時間発展を示している。本研究では、先ず、臨界状態(零質量の状態)に近いブラックホールの中心部に発生する時空の特異点構造という観点から臨界現象の本質の理解を試み、特異点構造の動的変化とブラックホールの質量に関するスケーリング則との関連を調べた。さらに、今年度にもわたってこの質量のスケーリング則の解析を進め、固有な周期の振動モードが自己相似的な時間変化に付加される場合のスカラー場や重力場の振舞を詳細に調べた。その結果、その振動モードの固有周期が質量のスケーリング則の臨界指数を決定していることが見出され、臨界重力崩壊における場の非線形相互作用の実態が明らかにされた。3.また、ブラックホールの熱的蒸発過程の重要な指標となる表面重力の定義を動的状態の場合にも定義を拡張することに成功した。この結果によれば、自己相似重力崩壊で形成される動的ブラックホールの量子蒸発は単純な熱的過程ではないことが理解できる。現在、固有振動モードの寄与を含む臨界重力崩壊モデルの量子化について研究を遂行しつつあり、ブラックホールの量子蒸発に対する非熱的過程の視点を確立していく予定である。
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