研究概要 |
本研究計画は高エネルギー軽イオン核反応の二種類の反応過程を反対称化分子動力学(AMDと略称)理論を用いて研究するものです。一つは(p,p′),(p,n),(^3He,t)等の反応に於ける準弾性散乱や△空孔励起等を含む標的核連続状態への反応過程で、他の一つは軽イオン入射による標的核破砕反応です。今年度はこの二種類の反応過程の研究においてともに進展があり、以下の様であった。まず、AMDに△共鳴の自由度を取り入れた研究がが平成7年度に入って、800MeVの^<12>C(p,p′)反応に対して行われました。準弾性散乱ピークや△共鳴生成によるバンプの近傍部分に於いて多段階反応過程の寄与が重要であるとの興味深い知見がえられました。また、運動学として、入射速度の半分の系にローレンツ変換した上で非相対論のAMD法を用いることの妥当性の証明なども得られました。この研究は論文に纏められPhysical Review C誌に掲載されました。現在、パイ中間子の自由度を核内で陽に組み込む計算プログラムコードを作成中です。次に陽子入射の全反応断面積の実験値を用いて核媒質中二核子衝突断面積を入射エネルギー依存の形で決定する研究が行われました。これは、反応断面積を決定するものは入射陽子の核内核子との最初の衝突であることから、二核子衝突のエネルギーとしてはほぼ入射核子エネルギーに等しいもののみが関与するという特徴を利用したものである。標的核としては^9Be,^< 12>C,^<27>Al,^<40>Cを選び、その各々に対しエネルギー依存の核媒質中二核子衝突断面積を決定した。将来の課題としては、密度依存性を導入して標的核に依存しない二核子衝突断面積を決定することである。この研究も論文に纏められPhysical Review C誌に投稿されました。なお、既に論文掲載の為された(p,p′)反応二重微分断面積のAMD研究について、平成7年度に入ってから、直接反応理論を用いた研究や古典的シミュレーション理論のQMD法を用いた研究等と比較検討され、現在活発な議論が進行中であることを報告しておく。最後に、軽イオン入射による標的核破砕反応の研究については、標的核としては、^<12>Cを選び陽子を入射核とした場合の研究が、^<14>Nを入射核とした場合と比較することにより行われました。その結果陽子入射と重イオン入射では^<12>C標的核の破砕が著しく異なることが発見され、その理由を現在詳しく研究中で、^<12>C標的核が単一粒子運動励起により破砕に至る場合とクラスター運動励起により破砕に至る場合との相違に起因するという解答を得つつある。
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