研究概要 |
本研究計画は高エネルギー軽イオン核反応の二種類の反応過程を反対称化分子動力学(AMDと略称)理論を用いて研究するものです。一つは(p,p^1),(p,n),(^3He,t)等の反応に於ける準弾性散乱や△空孔励起等を含む標的核連続状態への反応過程で、他の一つは軽イオン入射による標的核破砕反応です。前年度は前者の反応過程の研究に重点が置かれ多くの成果を挙げましたが、今年度は後者の反応過程の研究に重点を置きました。まず、前者の反応過程についての研究としては前年度に引き続いて、陽子入射の全反応断面積の実験値を用いて核媒質中二核子衝突断面積を入射エネルギー依存の形で決定する研究が行われました。標的核としては^9Be,^<12>C,^<27>Al,^<40>Cを選び、その各々に対しエネルギー依存の核媒質中二核子衝突断面積を決定しました。この研究は論文に纏められPhysical Review C誌に掲載されました。次に、後者の破砕反応過程については、標的核の^<12>Cに陽子を入射した場合の研究が、^<14>N(重イオン)を入射した場合と比較する形で前年度に開始されました。その結果陽子入射と重イオン入射では^<12>C標的核の破砕が著しく異なることが発見されました。今年度はその理由を詳しく分析し、その結果、陽子入射では^<12>C標的核が単一粒子運動励起により破砕に至るのに対して、^<14>N(重イオン)入射ではクラスター運動励起により破砕に至るということ、つまり全く異なる破砕機構の存在が明らかにされました。この研究は論文に纏められPhysical Review C誌に掲載されました。今年度は更にそれに引き続いて二つの新しい分析を行い大きな成果を挙げました。一つは陽子入射と^<14>N(重イオン)入射との各々について破砕反応機構の入射エネルギー依存性を分析した事で、もう一つは陽子入射と^<14>N(重イオン)入射に加えて陽子と^<14>Nの中間の質量の^4He核を入射核とした場合の分析を行った事です。これらの新しい分析の結果、入射エネルギー20MeV/u以上の^<12>C破砕反応機構についてはほぼその基本についての全容が明らかになりました。それは、クラスター運動励起による破砕は、(1)陽子入射ではあらゆる入射エネルギーで起こらないが、(2)^4Heや^<14>N入射ではそれぞれ、30MeV/u程度までと50MeV/u程度までは起こるが、それ以上高い入射エネルギーでは起こらなくなるというものです。現在、この研究を論文に纏めつつあります。
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