多重極展開の考え方は、短距離の力学と長距離の力学を系統的に分類することにあり、素粒子物理のみならず物性物理、特に量子伝導現象の研究に有効である。解像度の変化と共に物理系にどのような対称性が現われるか知ることにより、系の相転移や集団励起を議論できる場合は多い。この考え方を踏まえながら、平成7年度には主として整数量子ホール効果の根幹に関わる諸問題を研究した。その内容は以下の通りである。 1.近年、ホール電子系のしめす非圧縮性流体としての性質とW_∞対称性との関連が注目されている。研究代表者がかってホール電子系を記述するために用いた場の理論にはこのW_∞対称性が自然な形で入っていることに気づき、ホール電子系のマクロな電磁的性質がW_∞ゲージ理論という普遍的な枠組に集約できることを指摘する論文を発表した。このW_∞ゲージ対称性はホール電子と電磁場の結合の様子を系統的に多重極に分類する役割を果たしている。ひき続き、W_∞ゲージ理論を分数量子ホール効果の研究に応用する道を探っている。 2.ホール電流が試料の内部を流れるのかそれとも試料端に限るのか理論的に特定することは、量子ホール効果の理解に関わる基本的な問題である。これに関して、有限幅のホール電子系では、局在が原因となってホール電流のかなりの部分が系の端を流れるようになるという考えを既に提唱した。目下、この端電流の描像を検証するべく、計算機を用いたホール電流分布に関する数値実験を進めている。期待に沿った結果が得られそうである。現在別途に、端電流とドハース・ヴァンアルフェン効果の関連を指摘する論文を準備している。
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