本研究の目的は、ある「親」状態(仮に集団的状態と呼ぶ)が多数のバックグラウンドとなる状態(背景状態と呼ぶ)に埋め込まれた場合の強度関数のゆらぎの研究である。研究の過程でいくつかの模型を検討し、それらについて種々のゆらぎの指標を調べた。 まず一つの状態(集団的状態)が背景状態と結合する模型を構築した。この際両者の結合に対しては簡単な形を仮定し、背景の力学的特質が集団的状態の強度関数に与える効果が明確に見えるようにした。強度関数の特徴を調べるため、モーメント、強度分布関数、フラクタル次元、生き残り確率(フーリエ変換)という、強度関数の異なる様相を強調するような指標を取り上げ、背景状態の変化に伴うふるまいを計算した。得られた結果は、モーメントは強度和則により強く制限されるため、高次のものまで背景状態の特徴にあまり依存しないが、一方強度分布と生き残り確率は背景状態の力学的特質を反映する。また、フラクタル次元は非調和振動子の背景状態を考える限りほとんどパラメタ依存性をもたないが、乱雑行列の背景状態とは明確な差を示す。この点は今後の検討課題として残されている。 次に、背景状態に埋め込まれた二状態の模型を考察した。この場合は、背景状態を通して二状態間の間接的結合が生じ、状態の集団性に関するコヒーレンスの検討が可能になる。我々は特に、「親」となる二状態の強度を状態間のエネルギー差の関数として求め、背景状態の力学的特質の役割を検討した。背景状態が可積分的である場合とカオス的である場合では、主要な強度をもつ状態のふるまいが全く異なることが見いだされた。この点を中心に、準位ダイナミックスの観点からの検討を続けている。
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