研究概要 |
前年度の行った個々の実験装置・技術面の開発成果を総合し、(p,2p)反応(核内陽子-陽子(p-p)散乱)における2回散乱実験を世界で始めて成功させた。縦・横両偏極ビームを用いることによって、全方向に対する偏極移行量(Dnn,Dll,Dss,Dls,Dsl)ならびに偏極(P),偏極分解能(Ay)を測定、前方放出陽子に関するスピン完全実験となっている。 本研究に関連した我々の成果のひとつとして、この(p,2p)反応における反応点の平均密度の評価がある。今回測定を行った標的^1H,^<40>Ca,^6Li,^<12>Cはそれぞれ異なった平均密度での測定に対応しており、上記測定はp-p散乱偏極観測量の核密度依存性を調べたことに対応している。 測定結果は、偏極分解能(Ay)が自由空間での値から核密度の関数として大きく減少するのに対して、偏極移行量(Dij)は殆ど変化していないというものであった。これは、核子-核子(NN)散乱振幅の核内変化が、各スピン成分相互間の位相の変化として現れ、その相対的大きさの変化は少ないことを示している。このことは提唱されているいくつかの理論に対してその妥当性の判断基準を与えるものであり、たとえばDirac相対論的アプローチを定性的は支持するものである。 さらに、自由空間でのp-p散乱では時間反転対称性からの帰結としてP=Ayが成立するが、本測定では成立していなかった。このことは、陽子が束縛されている影響(オフシェル性)によって核内NN散乱振幅には自由散乱では現れない項が存在していることを示している。
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