研究概要 |
原子核内において核子や中間子の性質が変化している可能性が最近理論的に示唆され、原子核・素粒子物理学で興味がもたれている。このような原子核場による媒質効果を、核内での核子-核子散乱振幅を通じて調べることが本研究の目的である。そのため、原子核内の核子-核子散乱とみなすことができる準弾性散乱のexclusive測定[(p, 2p)反応]によって微分断面積と偏極分解能(Ay)を測定した。その結果、Ayが自由空間での核子-核子散乱の値に比べて大幅に減少しているとの結果を得、また、その減少の程度が標的核によって異なっていることを発見した。 原子核内で静止状態にある核子との準弾性散乱を実験的に選択すればこの反応の起こる平均核密度が定義でき、その値が原子核の飽和核密度の約50%にも達する場合があることが本研究を通じて見い出したが、上記Ayは、この平均核密度の単調関数として減少しており、何らかの媒質効果の存在を強く示唆する結果となっている。 このような媒質効果のひとつとして、Dirac相対論的効果によるものがある。これは核内で核子のスピノルが変化しているとする理論的予測で、その効果を核内核子の質量変化としてとらえる。本研究グループでは、インディアナ大学の理論グループによる手法によってこの効果の(p, 2p)反応への影響を計算し、定性的には実験データを再現する結果を得た。 核子散乱による核内部状態の研究は強い吸収効果にのために不可能であるとされていたが、本研究によってその有効性が示され、強い相互作用で支配されるハドロン多体系としての原子核の研究に新たな展開をもたらすものと期待している。
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