シリコン・マイクロストリップ検出器の表面損傷については、イオン化効果によりシリコンとSiO_2の境界面に正電荷が蓄積することがマイクロディスチャージに大きく影響していることが解り、マイクロディスチャージを抑制する構造の検出器を実現した。その要決は1)読み出しストリップの幅をインプラントストリップより狭くすることと、2)インプラントの深さを深くすることにある。バルク損傷に関しては、バルクの型転換それに続いておこる全空乏化電圧の上昇、放射線損傷を受けた検出器のストリップ間の電気的分離の状況、電荷収集効率を測定した。シリコン・マイクロストリップ検出器でこれらを総合的に検討したのは初めてである。この研究でシリコン・マイクロストリップ検出器の放射線損傷の基本的な研究は終わった。 放射線損傷に強い検出器を製作するには第一にマイクロディスチャージを抑制すること、第二に全空乏化電圧の上昇を遅らせること、および第三に高いバイアス電圧に耐えられる構造にすることが有効である。このことを放射線照射実験、レーザーテスト、ビームテストを通じて確認した。また、この3点に留意して製造したシリコン・マイクロストリップ検出器は1Mrad程度の放射線を照射した後も使用に耐えうることも実証した。この成果は、米国フェルミ研究所に我々が共同研究として建設するバ-テックス検出器SVXIIに取り入れられる。欧州原子核研究所のATLAS検出器の飛跡検出器SCTにも生かされるであろう。
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