研究概要 |
本研究では、前平衡核反応における多段階直接(MSD)過程を記述する半量子論的なモデル(半古典的歪曲波モデル:以下SCDWモデル)を新たに提唱し、これを用いて中高エネルギー領域の核子入射反応前平衡粒子放出過程におけるMSD機構の詳細を調べることを目的としている。本年度は、従来の2段階過程までのSCDWモデル数値計算を2段階過程まで拡張することに成功し、65〜200MeV領域の(p,p'x)や(p,nx)反応の解析に適用した。また、核内での2核子散乱に与える媒質効果を調べるために、非相対論的ブルックナ-理論によりG行列を求め、密度依存の2核子散乱断面積の計算を行った。それをSCDWモデル計算に適用し、自由空間での2核子散乱断面積を使用した場合との比較検討を行った。計算結果は、反応の移行エネルギーが大きくなるにつれて3段階過程の成分が増加し、その角度分布の形状がより緩やかになってくることを示した。自由な核子核子散乱断面積を用いたSCDW計算は、中間角度領域(30°〜90°)の範囲において実験データとのよい一致を示した。また、核内2核子散乱の媒質効果はSCDW計算には最前方角を除きあまり効かないことがわかった。これは、支配的な1段階MSD反応が主に核表面近傍(低密度領域)で起こっており、核媒質の効果をあまり受けないためであると考えられる。他の理論モデル(FKK理論)やQMDやAMDなどの微視的シミュレーション計算との相互比較を行い、各段階毎の多段階直接過程成分の相対的割合はモデル間でほぼ等しい傾向をもつこともわかった。さらに、SCDWモデルで使われている歪曲波の局所的半古典近似の妥当性を詳細に調査し、本研究で対象としている中高エネルギーでは十分に良い近似であることがわかった。
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