研究概要 |
本研究では、前平衡核反応における多段階直接(MSD)過程を記述する半量子論的なモデル(半古典的歪曲波モデル:以下SCDWモデル)を新たに提唱し、これを用いて中高エネルギー領域の核子入射反応前平衡粒子放出過程におけるMSD反応機構の詳細を調べることを目的としている。本年度行った研究は以下の通りである。 (i)(p,nx)反応の計算:これまでは主に(p,p′x)反応を扱った。本年度は、反応のQ値を考慮したエネルギー保存をSCDW計算に取り入れることで、(p,nx)反応の計算を行い、実験値と比較した。(p,p′x)反応と同一入射エネルギー・同一標的核に対する(p,nx)反応の角度分布およびエネルギー分布に対してSCDW解析を行った結果、(p,p′x)反応と同程度に実験データを再現できることがわかった。 (ii)ウィグナー変換を導入したSCDWモデル計算:SCDWモデル計算は放出粒子の中間角度領域(30〜90度)で実験値と良い一致を示したが、最前方角および後方角での不一致が見られた。そこで、有限ポテンシャルから計算されるより現実的な一粒子波動関数を取り扱える手法を検討し、mixed densityのウイグナ-変換を用いた新しいSCDWモデルの定式化を行った。有限ポテンシャルとして、ウイグナ-変換の解析解が得られる調和振動子ポテンシャルに対するSCDW計算を行った。その結果、後方角での断面積の増加が見られ、実験値との一致を改善する方向にあることがわかった。このことより、核内核子の運動量分布に含まれる高運動量成分が後方角への核子放出に重要な役割を果たすことを見出した。さらに現実的なポテンシャル(Woods-Saxsonポテンシャル)を使った計算により、実験値との一致は改善されることが期待される。 (iii)交換項を厳密に取り扱ったSCDWモデルの定式化:核子核子相互作用の項を自由な核子核子散乱断面積に置き換える従来のSCDWモデルの定式化に対して、2核子散乱の実験値を再現できる有効相互作用を用いて、交換項を厳密に考慮できる定式化を行った。この結果、スピン移行などの偏極物理量の計算へ拡張できる見通しが立った。
|