研究概要 |
本研究では、前平衡核反応における多段階直接(MSD)過程を記述する半量子論的なモデル(半古典的歪曲波モデル:以下SCDWモデル)を新たに提唱し、これを用いて中高エネルギー領域の核子入射反応前平衡粒子放出過程におけるMSD反応機構の詳細を調べることを目的とした。まず、SCDWモデルによる多段階成分の計算手法の開発に取り込み、準乱数モンテカルロ多重積分法を応用することで、3step過程までのSCDW計算に初めて成功した。本モデルを、数10MeVから200MeVまでのエネルギー領域の中重核(主に、^<58>や^<90>NiZr)に対する陽子入射反応の計算に適用した。その結果、最前方角と後方角を除いて、調整パラメータなしに、実験値との良い一致を得た。後方角での過小評価の原因は、入・出射波の屈折効果を弱く評価していることではなく、使用している局所的フェルミガスモデルが与える核内核子の運動量分布にあることを見出した。その後、一体密度行列のWigner変換として計算できるWigner分布関数を導入する方法を考案し、局所的フェルミガスモデルの代わりに、調和振動子ポテンシャルやWoods-Saxsonポテンシャルに対するより現実的な一粒子波動関数を使ったSCDW計算を行い、実験値との一致が改善できることを明らかにした。また、核反応のQ値を正しく取り入れた計算ができるように修正し、荷電交換反応である(p,nx)反応の解析に適用できることを実証した。さらに、断面積に核媒質効果を取り入れたin-medium断面積を用いたMSD計算を試みた。この結果、200MeVまでの陽子入射MSD反応の場合には、核媒質効果はあまり顕著ではないことが示された。その後、有効相互作用の行列要素を直接計算する新しいSCDWの定式化へ拡張され、核内2核子散乱のoff-shell効果などが詳細に調べられた。結果、連続状態への粒子放出を伴うMSD過程では、off-shell効果は大きくないこともわかった。
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