第一の課題は、Ξ^-・原子核結合状態から、ΛΛ状態への遷移機構を研究することであった。原子核に結合されたΞ^-粒子は陽子と反応して2個のΛ粒子に転換する。この時のconversion widthを三つに分けて計算する-2個共に核に捕捉されるwidth、1個が捕捉され1個が放出されるwidth、2個共に放出されるwidth。始状態のΞ^-・陽子及び終状態のΛに対して核内一体ポテンシャルのもとで性格に解かれた波動関数を求め、残り核子状態については殻模型波動関数を用いて上の過程に対応する遷移行列を求める。我々の以前の取扱いは次の点で不十分であった。第一に、核子は各軌道に平均的につまっていると簡単化していた事である。この点については、今回は正確な殻模型波動関数を用いた。第二に、終状態のΛ粒子が連続状態になる場合に入射波を含む定常波型散乱波動関数を用いていた点である。Λ粒子は核内でのconversionによって生成されるので入射波は含まれない。今回はKapur-Peierls法を用いて、そのような境界条件を正確に考慮した。以上のごとく、将来の実験により観測されるであろう3種類のconversion widthに関して、理論的により信頼しうる結果を得たことが第一の成果である。第二に、KEK-E176実験によってエマルジョン中に見いだされた3例のtwin Λ hypernucleiのイベントにおいて、始状態のΞ^-と原子核(C、N、O)の結合状態のエネルギーが決められているが、このデータはΞN相互作用に関する有益な情報を与えるものである。理論的にはΞN相互作用はSU3不変OBE模型によって推定されるが、いくつかの模型の結論は定性的にすら異なっている。我々は、まず不十分な引力を与えるNijmegen model-Dから出発し、G行列理論を用いてΞN有効相互作用を求め、次にそれをfoldingすることによって得られるΞ-核相互作用を用いて、Ξ^--核間の結合エネルギーを求めた。その結果、データは無理なく再現され、従来はほとんど未知であったΞN間相互作用が、平均的にはかなり強い引力であること、そしてSU3不変OBE模型の一定の選別ができることが示された。
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