研究概要 |
近年、ダブルストレンジネス(S=-2)状態(Ξハイパー核、Ξ^-原子、ダブルΛ核等)やΛΛやΞNの素過程の相互作用に対する関心が高まり、いくつかの興味ある実験がわが国のKEKや米国のBNLで進行している。本研究の目的は、ダブルストレンジネス状態の生成・構造と強い相互作用による遷多の過程(Ξ粒子の生成・吸収、Λ粒子はの転化と核への付着)を調べることであった。KEK-E176実験に於いて、エマルジョンとカウンターを組み合わせるテクニックを用いることによって(Κ^-,Κ^+)反応で生成されたΞ粒子がエマルジョン中でストップするイベントが抽出され、その中にダブルΛ核の生成が1例、2個のシングルΛ核(twin Λ hypernuclei)の同時生成が3例発見された。これらのイベントは、エマルジョン中の原子にトラップされたΞ粒子が原子軌道から原子核に吸収され、核内陽子との反応によって生じた2個のΛ粒子が原子核に付着したものと考えられる。 他方、我々はダブルΛ核を生成・観測する別の方法を検討・提案した(Κ^-,Κ^+)反応は運動量移行が大きいために、生成された1個のΞ^-(または2個のΛ)がそのまま核内に留まる(Ξハイパー核もしくはΛΛハイパー核の直接生成)確率は非常に小さく、大部分は核外に放出される(準弾性散乱)。上記の方法は、こ準弾性散乱過程で生成されたΞ^-をエマルジョン中でストップさせるわけであるが、ストップして原子核に吸収される確率は小さくダブルΛ核を作る方法として効率は高くない。これに対し我々は、次のようなプロセスによって(Κ^-,Κ^+)反応点でダブルΛ核が生成される確率が大きい事を指摘した。 (1)準弾性Ξ^-粒子が核内核子との再散乱によって運動エネルギーを失って原子核に捕獲される。 (2)捕獲されたΞ^-は核内陽子と反応して2個のΛに転換し、"double-Λ compound nucleus"が形成され、 (3)そのfragmentationの結果、種々のダブルΛ核が生成される。 我々は、種々のターゲット核に対して、どのようなΛ核がどのような確率で作られるかを計算し、例えば、^9Beターゲットの場合には^5_<ΛΛ>Hが特に大きい確率で作られることを見出した。現在、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)において進行中のE906実験においては、(Κ^-,Κ^+)反応点で生成されたΛ核のπ^-崩壊により放出される2個のπ^-を円筒型検出器系(CDS)を用いて観測することを目指している。2個のπ^-エネルギーが測定されれば、生成されたダブルΛ核が同定され、その結合エネルギーがもとめられる。
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