研究概要 |
標的となる錫粒子の全重量が0.0354g(錫粒子の直径は30μm,粒の総数は34万4千個),充填材Al_2O_3が0.175g,全体で0.21gの検出器を製作し,観測の基礎実験を行った。 観測条件は温度30mK・印加磁場326Gで,信号読み出し回路系には初段に減衰共鳴回路方式(共鳴振動数は約1MHz)を採用した。得られた転移信号の「時間分布」「パルス高」の解析から以下のことが明らかになった。 1.地上観測では,当然のことではあるが,通常の宇宙線の影響は避けがたい。複数の標的粒子を貫通する宇宙線の識別は可能だが,ただ1個が転移した信号を,宇宙線であるか暗黒物質であるかを識別するには,通常の宇宙線とのコインシデンスを取る作業が不可欠である。結局,地下での実験が有利である。 2.錫粒子の粒径分布を5μm以内に収めても,それに対応する過熱超伝導場superheating superconducting field H_<sh>は,温度30mKで250〜400Gと幅広く分布する。粒径の精度を上げて,この幅をさらに狭くしないと実質的な有効標的質量を減らしてしまう。1μm以内に収められると粒径選別法の開発が必要である。 3.錫粒子と充填材とを均質に混ぜることが肝要である。錫粒子が近接している場合には,1個の錫粒子の転移が次々と近傍の錫粒子を転移させる。仮に最初の転移が暗黒物質によるものであっても,結果的に複数の粒子が転移すると,それは通常の宇宙線によって引き起こされたと判断せざるを得ない。 「過熱超伝導粒子系」による素粒子検出器の開発は依然として実用段階の手前にあり,実用化には寸法選別,信号読み出し回路系の開発等の一層の研究が必要とされる。
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