研究概要 |
水は10^<-11>秒程度の時間で、水素結合による四面体的構造を基本とした瞬間的な構造をもってゆらいでおり、このゆらぎによる振動・緩和過程の特性の中に、水のダイナミックな構造と水の特異性が反映されている。一方、水は、室温で0.2GPa以上の圧力を加えると、粘性率等の物理量の異常性がなくなっていく。この研究では、水のもっている特異性のオリジンを明らかにするために、この異常性が無くなる過程でのダイナミクスの特徴を、高圧力下での水の低振動数ラマン散乱スペクトルの解析から明らかにすることを目的として研究をおこなった。水の低振動数ラマン散乱スペクトルには、水分子間の伸縮振動スペクトルと、変角振動スペクトル、および、水素結合の生成・消滅によって生じる、速い緩和が存在する。0.2GPa以上の圧力を印加したとき、これらの振動と緩和のスペクトルの変化を明らかにするのが目標であった。 計画では、まず、0,2〜0.3GPaまで出せる試料用カセルの開発と、安定に圧力を印加できる圧力印加システムの構築をめざした。圧力カセルの設計は予定通りであったが、あてにしていた圧力発生装置の改良が思うように進展しなかったため、目標とした圧力を安定に発生することができなかった。今後、できるだけ早い時期に改良が完成するよう現在取り組んでいる。 そこで、報告は圧力を発生できたときに比べるために、水とその同位体の低振動数ラマンスペクトルと高振動数ラマンスペクトルの解析、とくに、それぞれのモードの強度の温度変化を新しく明らかにした。このなかで、特筆すべきことは、水のラマン領域の緩和モードの強度が20℃と40℃で異常を示すことがはじめて明らかになった。今後この成果を高圧力下での実験にいかすために継続的な努力を続ける。
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