研究概要 |
本研究は,氷中の72Kにおける、プロトン秩序化相転移における揺らぎの増大を蛍光寿命によって検出し,ESPTモデルの検証を目的としている。プロトンの秩序化相転移は、理論的には強い一次の相転移である事が予測されている。そうであるなら、両相のstability limitは転移点の数度上下にあることが期待され、このstability limitへ向けての揺らぎの発散が起こるはずである。研究の結果,本年度に次の事が判明した. 1.72Kのproton秩序化相転移の影響を、KOH-dopedではない結晶でも、蛍光寿命の方法で検出することに成功した。このことはproton orderingは局所的にはdope分子とは関係なく本質的に起こっていることを示している点で興味深い。 2.この相転移の影響は,熱測定や誘電測定と異なり約10Kにわたる広い温度範囲でおこる.このことは蛍光寿命が一次転移のstability limitに関係している事を証明している. 以上の結果は,1995年7月に札幌で行なわれたphononの国際会議および日本物理学会で発表し雑誌Physicaに印刷中である.又その後 3.低波数域のラマン散乱スペクトルからKOH-doped iceでの温度変化がプロトン秩序化転移の影響を受けていることが確認された. 平成7年度に得られた結果はほぼ当初の目標を達成したと言える。来年度は,試料依存性,アニーリング時間依存性とともに,低波数ラマン散乱スペクトルの変化を詳細に調べる.また本研究のもうひとつの目的である融解点近傍の蛍光寿命の変化から,氷の融解の前駆現象を検知することを計画している.
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