研究概要 |
Se, SなどのVI族元素を含むアモルファスカルコゲナイド半導体では、光黒化、光退色、光結晶化などの様々な光誘起構造変化現象がみられる。これらの現象は、光によって励起された電子が緩和する際に、強い電子-格子相互作用を介して大きな格子の変形を引き起こすことによって起こると考えられる。アモルファス物質が熱平衡状態にないということも、構造変化現象を考える上で重要である。このような構造変化には、物質中に2配位で組み込まれているカルコゲン原子が大きく関与していると考えられるが、その詳細はまだ明らかでない。特に、励起電子がどのように緩和するのかという点についての、基本的かつ具体的な理解が不足している。 典型的なカルコゲナイド半導体である結晶GeSe_2およびGeSe_2ガラスについて、その励起電子緩和過程についての知見を得るために、フォトルミネッセンスの時間分解測定を行った。これらはいずれも可視域(約2.2〜2.7eV)にバンドギャップを持つが、バンドギャップ程度のエネルギーを持つ光で励起すると近赤外域(約1eV)に幅の広いガウシアン型のルミネッセンススペクトルを示す。この大きなストークスシフトは、この系の強い電子格子相互作用に起因する。連続発振レーザー光を光音響変調素子を用いて適当な周期の断続光にしてルミネッセンスの励起に用い、励起光遮断直後からのルミネッセンスの減衰を数100nsecから数msecの範囲にわたって調べた。両者のルミネッセンススペクトルには類似する点が多く、その発光の始状態はいずれも強く局在していると考えられる。ガラスGeSe_2では、減衰が拡張指数型であるのに対し、結晶GeSe_2では単一指数関数型である。乱れのある系での拡張指数型減衰は、ガラスの発光がエネルギー分布を持つ多数の発光中心に起因するためと考えられる。
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