研究概要 |
Si(111)表面上のV族吸着原子Sb,Asに対して,各々5種類の吸着模型を設定し,スラブ模型と局所密度汎関数法を用いた全エネルギーの第一原理的計算を行った。その際,下地Si原子位置の変位(緩和)を許すことにより各模型ごとに最安定な原子位置を決め,各模型に対する下地緩和の効果を系統的に調べた。 被覆型1/3の吸着模型においては,下地緩和によるエネルギー利得が,従来III族原子の同様の吸着模型について知られていた値よりさらに大きいことがわかった。第2層Si原子の真上の吸着位置は特にエネルギー利得が大きく,その値は1eV以上にも達し,第4層Siの真上の吸着位置よりも安定化する。これらの下地緩和に伴い表面電子状態にも大きな変化が見られ,Sb吸着面の場合では,光電子分光などの実験結果との整合性が大きく改善された。 一方被覆度1の吸着模型では下地緩和の効果は小さく,各模型の安定性の順序は,下地緩和によって変わることはなかった。 これら下地緩和の効果の定性的傾向は,電子状態計算における平面波打ち切り波数にはあまり強く依存しないことが確かめられた。各吸着模型間の安定性の定量的比較の際に必要とされる波数打ち切り値についても,詳しく調べられた。 これらの下地緩和の効果と,各吸着模型間の被覆度の違いを合わせ考慮することにより,吸着初期段階における各模型の安定性比較を行うことができた。特に最安定構造については,AsとSbの場合で異なるタイプのものとなり,実験的に観測されている結果を再現することができた。
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