研究概要 |
平成8年12月までに,分布を持った磁場下の量子ホール効果の温度依存性の測定を,温度範囲50mK〜4.2Kで,高移動度と低移動度の試料について行い,ホール抵抗のプラトー間遷移領域の,高磁場側へのシフトの温度依存性を観測した.磁場分布は,Bi系高温超伝導体の単結晶を,試料の上に張り付けることによって作った.この超伝導体のつくる磁場分布を,多端子ホール素子を新たに作製して,これを用いて実際に測定した.その結果,これまでの推定磁場分布が,実際の磁場分布のよい近似になっていることが分かった.この測定した磁場分布を用いて,遷移領域のシフトの温度依存性を解析した.その結果,量子ホール効果の遷移領域でも,バルクエッジ電流が存在することが確かめられた.さらに,高移動度試料の電流分布の温度依存性が,低移動度試料の温度依存性よりも強いことが明らかになった.この結果は,温度依存性の機構に,非弾性散乱が関与していることを示唆する.しかし,電流分布の形を定量的に決定するには,磁場分布を定量的に決定するだけでは不十分であり,電流分布の温度依存性の機構について,理論的な考察が必要であることが明らかになった. また,スピン分離したランダウ準位について測定した結果,スピンアップとスピンダウンのランダウ準位で,温度依存性がまったく異なることを見い出し,この現象が,試料の移動度やランダウ準位指数に依らず,一般的な現象であることを確かめた.これは,整数量子ホール効果において,電子スピンに依存した現象を初めて見いだしたものであり,その意義は大変大きい.
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