液体ヘリウム表面上ウィグナー結晶でみられる特異な非線形伝導、特にスライディング状態の性質の解明のため、以下のような研究を行った。 1 パルス法の開発とこれを用いたスライディングのダイナミクスの研究 スライディング転移のダイナミクスを調べるため電圧パルスを結晶に印加して応答を調べる方法を開発した。これにより、 (1)ウィグナー結晶のスライディングはパルス電圧の時間変化率がある閾値を越えた時に起こることを見いだした。これは結晶の内部に誘起される電流に閾値が存在することを示しており、我々の提唱しているスライディングモデルの正しさを裏付けるものである。 (2)結晶がスライディングした後に元の状態へ回復する過程が存在し、これにかかる時間が100マイクロ秒にも達する非常に長いものであることがわかった。これは結晶電子が液面のへこみを「再構成」する過程と考えられる。 2.フェルミ液体ヘリウム3表面上ウィグナー結晶の研究 液体ヘリウム3はフェルミ液体であり、統計性、高い粘性が表面上ウィグナー結晶のダイナミクスに大きな影響を及ぼすと期待される。そこでこの系の交流伝導度の測定を行った。 (1)伝導度が印加磁場の逆2乗に比例し、ドル-デ則に従うことを見いだした。この振る舞いは、ヘリウム4表面上ではドル-デ則が破れているという我々の以前の結果と大きく異なる。 (2)移動度が温度の2乗に比例することがわかった。これは、液体ヘリウム3の粘性率がフェルミ液体効果により温度の逆2乗に比例することによると考えている。表面電子系において下地の粘性の効果を見いだしたのはこれが初めてと思われる。 (3)ヘリウム4表面上と同じく、スライディングと思われる伝導度のジャンプを観測した。スライディングの閾電圧はヘリウム4でのそれよりも1桁近く小さい。また閾値以下の電圧領域においても伝導度が線形、非線形性を示す2つの領域が存在することがわかった。
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