低次元磁性体において顕著に現われる量子スピン効果に関して、交付金を活用してモデル物質群の合成と測定装置の整備を行い、NMR、ESR、中性子回折、uSR、強磁場磁化測定などによる広範囲な実験研究を行ない、以下の成果を得た。 1、スピン1/2を構成要素とする複合スピン量子一次元鎖の研究 (1)S=1/2強磁性および反強磁性三量体からなる一次元反強磁性モデル物質3CuCl_2・2dioxaneおよびA_3Cu_3(PO_4)_4における新しい量子スピン効果を観測し、空間構造をもつ複合量子スピン鎖の特異な磁気特性を明らかにした。 (2)S=1/2を構成要素とする交互型および一様型一次元反強磁性モデル物質CuCl_2・2picおよびCuBr_2・2picならびにそれらの混合系において相互作用の交替化から生じる量子スピンギャップおよび一重項特性の変化を系統的に研究した。 2、量子スピン反強磁性鎖の一重項基底状態の研究 (1)一次元量子スピン系におけるギャップ形成の物理的起源を明らかにするために非磁性希釈効果を系統的に研究した。整数スピンHaldane系は希釈に対して安定であるが半整数スピンSpin-Peierls系は低希釈で不安定となり、ギャップ状態が消失して反強磁性状態が現われることを明らかにした。 (2)Haldane系基底状態に関連して、代表物質であるNENPを非磁性Znイオンで部分置換した系のESR実験を行った。VBSモデルからは、磁気鎖が独立な有限長鎖に分断され、一重項対結合ポンドが破壊されて鎖端に孤立したS=1/2スピンが現われると考えられるが、詳細な共鳴磁場の解析から、磁場によって誘起されるスタガード内部磁場が存在することを明らかにした。 (3)擬一次元物質CsNiCl_3について、鎖間相互作用がHaldane状態に与える影響を研究した。三次元秩序化温度の直上まではVBS状態が成立している。高温、高磁場において、量子スピンから古典スピンへのクロスオーバー現象を観測した。
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